小児先天性疾患
Congenital Conditions

〈扱う疾患の例〉
●頭蓋縫合早期癒合症(MCDO法)
頭蓋縫合早期癒合症とは, 頭の骨が成長する部分である頭蓋縫合(骨の継ぎ目)が通常より早く閉じてしまう疾患で, 頭の成長が抑制され, 頭蓋内の圧力が高まって脳の成長まで影響が及ぶことがあります.
また, 閉じて成長しなくなった部分と, 周囲との成長バランスが崩れ, 外見上も様々な頭の変形(舟状頭, 短頭, 斜頭, 三角頭など)を生じます.
脳の成長や発達を考えると早期発見が重要です.
治療では, 手術によって頭蓋内圧を下げ, さらに頭蓋の形もきれいに整えます.
手術法は従来より一期的に頭の形を作り直すcranioplastyや, 延長器で骨を少しずつ伸ばす頭蓋骨延長法などがあります.
また, 新たな術式としてMCDO法を行っています.
MCDO法は変形した頭蓋骨をいくつかのブロックに分け, 各々を多方向に骨延長させる画期的な方法です.変形の強い症例においても非常に安定した結果を残しております.
MCDO法の利点は, 従来の骨延長法に比べより自然な形態を安定して得やすいこと, また骨延長であるために一期的頭蓋形成術に比べて骨形成や拡大量に優れることが挙げられます.
術前


術後


頭を横切るくびれが改善し全体的な形態が改善しています.
延長器(ピン)が骨片ブロックについています.(最終的には除去します)
現在, 2009年に開設した「岡山大学病院 小児頭蓋顔面形成センター」のコアメンバーとして, 脳神経外科, 矯正歯科, 小児科等と連携し, 総合的な頭蓋顔面形成治療を行っております.
●口唇裂・口蓋裂
口唇裂, 口蓋裂は生まれつき, 上口唇や上顎, 口蓋が分離している疾患です.
胎生期の初め別々であった左右の口唇や顎, 口蓋が成長に伴いつながっていくのですが, この疾患では何らかの異常により, うまくくっつかなかったため生じます.
哺乳, 摂食や発音に影響が及ぶため, 生後から治療介入し, その後も成長に合わせた複数回の治療を行う必要があります.
当科では平成27年5月より開設された「岡山大学病院 口唇裂・口蓋裂総合治療センター」のコアメンバーとして, 矯正歯科, 口腔外科, 耳鼻咽喉科, 言語聴覚士と連携し, 総合的な口唇裂・口蓋裂治療を行っています.

術前 両側の不全口唇裂

手術デザイン

術後1年
●先天性耳介変形
耳介の変形は軽いものを含めると, 比較的よく認められます.
代表的なものについて下に述べます.
・小耳症
生まれつき耳介が小さいあるいは全くない状態です. 同時に外耳道(耳の穴)まで欠損することがあり聴力障害を生じることがあります(その場合も通常内耳はあるので伝音性難聴となります).
小耳症では大きく2回の手術を行います.
1回目は自身の肋軟骨から耳の形にフレームを作り,
これを耳を作る場所の皮下に移植する手術です(肋軟骨移植術).
これにより耳の表側の形を作ります.
耳甲介型小耳症など, 一部正常形態が残っている場合にはその部分を温存し, 足りない部分を補充するようなフレームを作ります.
術後経過:入院期間は2〜3週間です.
合併症:一般的な出血, 感染のほか, 軟骨フレームを覆う皮膚の血流不全に注意が必要です.
これらにより皮膚に穴があいて軟骨が露出してしまうと、軟骨が吸収され形が崩れてしまいます.
(最悪の場合、手術のやり直しになります)
術後注意深く観察し、早期発見と悪化防止が重要で、必要に応じて追加処置を行います。
また軟骨採取により、胸郭の変形が生じる場合があります。
費用:保険診療です.


術前の状態です.
耳の位置は、顔全体のバランスを見て決めます.
肋軟骨で作成した耳介フレームです

移植して半年後です.
この後に耳を起こします.
2回目は耳を起こす手術です(耳介挙上術).
1回目で作った耳の形は側頭部に張り付いた状態になっているので,
これを後ろ側から切開, 剥離して前へ起こします.
そのままでは、また倒れてしまいますので、肋軟骨(1回目の手術で余った軟骨を体に保存しておき利用します)で支えを入れ、さらに耳の裏面は筋膜と皮膚移植(下腹部や頭部から皮膚を取ります)で覆います。
術後経過:入院期間は3週間前後です.
合併症:一般的な出血, 感染のほか, 筋膜の血流不全、植皮の脱落に注意が必要です.
1回目の手術と同様これらにより穴があいて軟骨が露出するリスクがあります.
術後注意深く観察し, 早期発見と悪化防止が重要で, 必要に応じて追加処置を行います.
費用:保険診療です.

耳介挙上術では,
耳の後ろ側から切開し,
裏面をはがして起こします.

耳介挙上後 半年です.
今後, 必要に応じて部分的な小修正を加えて完成です.
・埋没耳
耳の上3分の1程度が皮下に埋まり込んでいる状態です. 手で引っ張ると引き出すことができますが, 離すと元通りになってしまいます.
生後1才未満(特に新生児)であれば, 簡単な装具(プラスチックやシリコンチューブ, 金属クリップ等で作成した矯正具)を数週間装着して, 軟骨に癖付けして治療できます.
ただし1才を過ぎると耳の軟骨が硬くなるため, 装具による治療が難しくなります.
そのような時や, 元々の軟骨の変形が強い場合や軟骨の低形成がある場合など, 矯正治療で治療効果が不十分であれば, 改めて3~6歳頃に手術を行います.

矯正前

矯正中

矯正後
・副耳
耳の周りにできる小さな突起物で, 比較的良く見られます. ときどき頬や頸に生じる時もあります.
機能的異常や障害はなく, 治療は見た目の改善目的となります.
皮下に軟骨の芯があるため, 手術にて切除します.

・先天性耳瘻孔
生まれつき耳の周りや中に, 細く小さな穴が出来る異常です.
穴は見た目以上に深く, 中に角質等がたまり場合によっては炎症を繰り返します.
穴があるだけでは治療を急ぐ必要はありませんが, 炎症を繰り返すような場合は手術で根治的に取り除きます.
●先天性眼瞼下垂
生まれつき瞼を開く筋肉(上眼瞼挙筋)が欠損し働きが弱くなる異常です.
手術で治療しますが, ある程度筋肉の機能が残っている場合はその筋肉の効きを強める手術法を, 筋肉が全く働かない場合は, 太ももの筋膜を移植して, 眉毛の動きで瞼を上げる手術法を用います.